目次
1. はじめに
FXでは、テクニカル分析や売買シグナルに従っても、思わぬ方向に価格が動くことがあります。
この「ダマシ」は、損失の原因となる避けたいリスクです。
本記事では、統計分析とEAの検証結果を交えながら、ダマシの原因と回避方法を解説します。
さらに、他の記事にはない独自の視点からの解説も加えています。
2. FXにおける「ダマシ」とは何か
FXにおける「ダマシ」とは何でしょうか。
FXでいう「ダマシ」とは、テクニカル分析や売買シグナルに基づいてエントリーしたにもかかわらず、価格が逆方向に動き、トレーダーが損失を被る現象を指します。
裁量トレードでもシステムトレードでも、このダマシは頻繁に発生し、トレード戦略を混乱させる大きな要因となります。
では、そもそもダマシはなぜ起きるのでしょうか。主な原因は以下の3つに分類できます。
| 原因 | 説明 |
|---|---|
| ①短期足のノイズ | 短期的な値動きによる小さな揺れが、テクニカル指標に誤ったシグナルを与える場合があります。 |
| ②上位足と方向が逆の場合 | 短期足では買いシグナルが出ても、上位足のトレンドが逆方向であれば、価格はすぐに反転してしまう可能性があります。 |
| ③重要な経済指標やニュースの影響 | 特定のタイミングで大きな材料が出ると、テクニカル分析の予測とは異なる動きが発生します。 |
| ④大口の介入(市場操作) | 銀行や機関投資家などの大口プレイヤーによる市場介入は、テクニカルサインとは逆方向に短期的な価格変動を引き起こす場合があります。ただし、発生頻度は限定的で、予測は困難です。 |
①の短期ノイズは移動平均線などのテクニカル手法である程度除去可能であり、③の経済指標やニュースの影響は事前にカレンダー確認で対応可能です。
④は本分析の対象外とし、「例外的なダマシ要因」として留意します。
したがって、ダマシ回避の観点から最も注目すべきは、②「上位足と方向が逆の場合」です。本稿では、この点に着目して分析を進めていきます。
3. 価格変動の力学の仮説
マルチタイムフレーム仮説とは、異なる時間軸の値動きが相互に影響するという考え方です。
上位足(例:日足や4時間足)は「大きな潮流=強い力」として働き、下位足(例:1分足や5分足)は「小さな波=弱い力」として作用します。
これらの力は、人がさまざまな時間足のチャートでトレードした結果です。
この力は物理学における素粒子間の4つの力(電磁気力、弱い力、強い力、重力)に例えることができます。
私はこれを「価格変動の力学」と呼びたいと思います。

マルチタイムフレーム仮説は、価格変動の力学の一つです。
よく言われるのは、「上位足の力と逆に動いた下位足のサインは、やがて上位足に吸収されて『ダマシ』になる」ということです。
本当にそうなのかを、統計的に確かめてみたいと思います。
4. マルチタイムフレーム仮説が有効か統計分析してみた
データの条件
- 期間:2014年1月1日~2025年9月23日(約10年間)
- 通貨ペア:ドル円
- ヒストリカルデータ:Tick Data Suite (TDS)
トレンドの定義
移動平均線(MA)を使ってトレンドを分けました。
- 長期MA < 短期MA → 上昇トレンド
- 短期MA < 長期MA → 下降トレンド
短期MAは5本、長期MAは20本を使っています。
時間足の分類
分析は「1分足・15分足・1時間足・4時間足」で行いました。
ダマシの定義
統計的に扱いやすくするため、次のように「ダマシが少ない」と定義しました。
1分足で5本連続の上昇または下降が多い場合、短期的なダマシが発生しにくい傾向にある。
もちろん、すべての「ダマシ」をこれで説明できるわけではありませんが、全体的な傾向をつかむのに役立ちます。
値動きが続くことは、「値が安定している」ことを示します。
ダマシというのは、トレーダーが「上がる」と思ってエントリーしたのに、逆に下がってしまうなど、予想と反対に値が動くことです。
1分足で5本連続して値が同じ方向に動いているときは、値の揺れが少なく、トレンドがはっきりしていると考えられます。
つまり、この状態ではダマシが起こりにくくなる傾向があると考えることができます。
分析結果
分析の結果、1分足単独で見るよりも、15分足・1時間足・4時間足と条件を加えていくほど、
「1分足で5本連続で上昇または下降している頻度」が大きくなりました。
頻度の計算方法
計算式は次のとおりです。
\[
F = \frac{\text{条件の組み合わせにおける「1分足で5本連続の上昇または下降」の件数①}}
{\text{条件の組み合わせにおける上昇または下降トレンドの件数②}}
\]
※条件の組み合わせとは「1分足・15分足・1時間足・4時間足」のことを指します。

| 条件 | ① | ② | ①/②*100 | 比率 |
|---|---|---|---|---|
| 1M | 1211 | 73038 | 1.658 | 1.00 |
| 1M+15M | 681 | 39328 | 1.732 | 1.04 |
| 1M+15M+1H | 470 | 25835 | 1.819 | 1.10 |
| 1M+15M+1H+4H | 327 | 16713 | 1.957 | 1.18 |
比率の差を検定するため、カイ二乗検定を行いました。(統計に詳しい人向け)
帰無仮説:4つの比率は等しい
- 検定統計量:χ² = 8.423
- 自由度:df = 3
- p値 = 0.03803
解釈:p < 0.05 であることから、4つの比率に統計的に有意な差があると考えられます。
この結果は、1分足単独よりも上位足の条件を加えたマルチタイムフレーム分析において、短期的なダマシが減少する傾向が統計的に確認できたことを示しています。実務的には、上位足のトレンド確認が有効であることを裏付けます。
この結果から、マルチタイムフレームは有効であると言えそうです。
なお、時間足の条件を一つ加えるごとに該当する件数は下記の通り当然のことながら減っていきます。

5. ダマシを回避する方法(パーフェクトオーダー)
マルチタイムフレームを自動売買システム(EA)に組み込む方法として私は、パーフェクトオーダー(Perfect Order)がよいと考えています。
パーフェクトオーダー(Perfect Order)とは
複数の移動平均線(MA)が上位足から短期足まで順番に整列し、明確なトレンド方向を示す状態を指します。
実務では、長期から短期までのMAが同方向に揃う場合、トレンドが強く、短期足のダマシが発生しにくいと考えられます。
例えばEAのエントリー条件として使用する際は、上位足の整列を確認することで不要なトレードを回避できます。
チャート上では、短期・中期・長期の3本の移動平均線(MA)を引きます。
- 長期MA < 中期MA < 短期MA の場合 → 上昇トレンド
- 短期MA < 中期MA < 長期MA の場合 → 下降トレンド
この3本のMAは、それぞれ異なる時間軸のトレンドをうまく表現しており、トレンドの方向を判断するのに役立ちます。

6. 実際のEAで検証
私が作成したEAを使った検証結果です。
上がパーフェクトオーダーを導入した場合、下がパーフェクトオーダーを導入しなかった場合です。

パーフェクトオーダーを導入した場合、チャートは滑らかに右肩上がりとなり、損失トレードが減少しました。
導入しなかった場合は価格の変動が不規則で、損失トレードが増加しました。
バックテストでは、パーフェクトオーダー導入により損失トレードが減少し、プロフィットファクターは3.10→1.44、最大ドローダウンは15.19%→20.55%となりました。
純益はほぼ変わりませんが、トレードの安定性は向上したことが確認できます。
なお、この検証結果だけで結論を出すことはできませんが、パーフェクトオーダーが効果的に機能する一例として参考にしていただければと思います。

上記のバックテスト結果からは、純益はほとんど変わりませんでしたが、パーフェクトオーダーを導入しない場合は、損失トレードが多いため、プロフィットファクターは、3.10→1.44と低くなったようです。
またドローダウンも15.19%→20.55%であり、不安定であると言えます。
7. その他のダマシ
今まで述べてきた以外にも、さまざまなダマシが存在します。
私の経験から特に目立つのは、短期的なチャートパターンによるダマシです。
これも価格変動の力学の一つです。
上昇や下降トレンドの最中であっても、特定のチャートパターンが出現すると、多くのトレーダーが飛びつき、その影響で一時的にトレンドと逆方向へ値が動くことがあります。
この現象は意外に無視できず、ときには損切りに追い込まれる原因にもなります。
したがって、高性能なEAを作成するためには、このような「チャートパターン起因のダマシ」にも注意を払う必要があります。
一般的に「EAのロジックはシンプルであるほど良い」と言われますが、現実にはこうした複雑な要因を考慮せざるを得ないのが実情です。
以下は私が作成したEAの検証結果です。
上段:チャートパターンフィルターあり
下段:チャートパターンフィルターなし
結果として、パーフェクトオーダー以上に顕著な差が確認できました。
なお、どのようなチャートパターンを「ダマシ」と判断しているのかについては、私のノウハウにあたるため非公開とさせていただきます。
チャートパターンを識別するため、高度なEAのロジックとなります。



上記のバックテスト結果からは、純益が減少していることが分かります。
パーフェクトオーダーを導入しなかった場合、損失トレードが増加したため、純益は 18.5万円から11.3万円へと減少しました。
さらに、プロフィットファクターも 3.10 から 1.71 へと低下しており、パフォーマンスの悪化が確認できます。
また、最大ドローダウンも 15.19% から 17.92% へ拡大しており、システムの安定性が損なわれていることが示されています。
8. まとめ
本稿では、FXにおける「ダマシ」の発生原因と、その回避手法について解説しました。
まず、ダマシは以下のような要因から発生します。
- 短期足のノイズや突発的な値動き
- 上位足と下位足の方向不一致
- 経済指標やニュースによる影響
- チャートパターンによる一時的な逆行
特に、上位足と逆方向に出た下位足のシグナル が、ダマシの主要な原因であることに注目しました。
統計分析の結果、1分足単独で見るよりも、上位足の条件を加えたマルチタイムフレーム分析を行った方が、短期的なダマシの発生は相対的に少ない傾向が確認されました。
これは「価格変動の力学」に基づくマルチタイムフレーム仮説の有効性 を裏付けています。
さらに、複数の移動平均線を整列させる パーフェクトオーダー の導入によって、トレンドが明確になり、不要なトレードを減らせることも確認できました。
加えて、私の経験からは「チャートパターン起因のダマシ」も軽視できない存在であり、EA開発においてはこうした複雑な要因にも対応する必要があると考えています。
総じて言えるのは、シンプルなロジックだけでは限界があるという点です。
マルチタイムフレームやフィルターを組み合わせて、ダマシをいかに減らすかがEAの安定性向上につながります。
ただし、本稿で示した結果は一例であり、全ての相場環境で同じ効果が得られるとは限りません。FXはリスクを伴う金融商品であり、投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。
